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独り言と僕が物と話すというのは違う。物と話しているわけだから独り言ではないし、何より声に出してなされるものではない。 僕が独り言を言うのは非常にまれなんだ。普段から僕は独り言を言わないように勤めている。それはたとえ自分のアパートの中に一人でいる今現在のようなときにでもだ。アパートの壁は薄いし隣の誰かに僕の独り言を聞かれるかもしれない。もし聞かれたとしたら、僕と面識のないそいつは僕の部屋の前を通ったり、僕の顔をどこかで見かけたら「あの独り言の奴だ」と僕のことを思うはずなんだ。我慢できないのは僕と面識のないそいつの中で僕に対する見解が僕のつぶやいた独り言に集約されることだ。そいつにとっての僕のイメージは僕の独り言そのものになるだろう。それがどうにも我慢できない。さらに悪いことにそいつは誰かに僕のことを喋るかもしれない。話を聞いた誰かはまた違う誰かに話すかも知れない。そうやってどんどん僕の知らないところで僕に対する間違った見解が広がるかもしれないじゃないか。僕の知らないところでというのも我慢できない。そういうのはごめんだった。 でも、僕は独り言を言った。
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