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 彼女の貯金残高は0円だったという。彼女は特に倹約家だったわけでもないけど、ブランド志向が強いわけでもなかった。何かがあったときや、将来のために毎月積立貯金をかけているような、お金に関してはわりかし一般的な感覚を持った女の子だった。お金に関してはね。  お金以外のことを例えば誰かに彼女が良識を持ったまともな女の子だったのかと訊かれると困ってしまう。少なくとも僕の知っている範囲の中でお金以外のことに関して彼女はまともなわけではなかった。 彼女がまともではない具体的な事例を2点、述べてみよう。 第一に彼女はマニアックな健康マニアだった。彼女の家には健康グッズ専用の部屋があって、その中にはよくわからない健康器具だとか難しい名前のサプリメントやらがずらずら並んでいた。貯金する以外のお金のほとんどは健康関係に使っていたんじゃないかなと思う。だって彼女はいつも質素な身なりだったから。 一度なんかは僕に妙な漢方薬を買うように勧めてきたりもした。そのときの彼女はスポーツ選手みたいに短い髪で化粧はしていなかったし、タンクトップ一枚だった。このときは夏だったんだ。息を切らしながら彼女は言った。 「やっと見つけたのよこれ。知り合いの密売人がわざわざ危ない橋を渡って手に入れてきたのよ」  彼女は汗をだらだら流しながら僕にチラシを渡すと僕のアパートの玄関に座り込んで肩で息をした。チラシはインターネットの情報を印刷したものらしく下のほうにURLが印刷されている。内容はよく見ないでもわかるようなインチキだった。  「電車で来たの?」  僕はチラシを丸めて部屋の奥に投げた。チラシは顔に皺ができたと言って怒っていたけど。  「違う。自転車」  彼女の家から僕のアパートまでは自転車で来るには遠い。車がないなら電車がベターなところだ。連絡してくれれば迎えに行ってもいい。 「麦茶でも飲みなよ」  部屋に誘ったら彼女はもう用は済んだと言って帰ろうとしたので自転車を車の後部座席に積んで家まで送った。自転車も車も小言をぶつぶつ呟いていたけどしょうがないじゃない。
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