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このメールはその日一日の営業指針を決めるための資料のようなもので、なければ困るのだ。考えてみてほしい。もし戦争が起こったとして、自軍の司令官が軍隊に備えられている銃弾や砲弾の数も把握しないまま敵と戦ったらどうなるんだ。補給のことを考えずに戦線を延ばして行き当たりばったりの戦闘を繰り返していたらいずれは弾が尽きて兵士は死ぬんじゃないのか?ジャングルをさ迷う孤独な日本軍みたいに。 僕はこの店舗を任されている責任がある。とっておきの暗号「紫」をアメリカに解読された旧日本軍のように補給を断たれて店舗を死なせるわけにはいかない。十一時半(正確に)には店は開店されなければならないし今日は日曜日だから客は車に乗って家族連れで大量にやってくるのだ。 でも僕の責任感を無視するみたいにメールは届いていなかった。それどころか十時半(予定で)には来るはずの配送のトラックも来なかった。戦線への補給は断たれたのだ。たった一人で補給もなく僕は戦わなければならないようだった。 僕は店のファックス機能付き電話から直属の上司はもちろん、先輩や他の店舗、それから畑違いの工場部門にまで電話した。上司の自宅にさえ掛けた。しかしやはり返ってくるのはお定まりの留守番電話の音声だけだった。 そして時間は容赦なく過ぎて行った。時間は僕が電話を掛けているうちにあっとゆうまに過ぎた。楽しいときに時間は早く流れるとよく言われるけど、切羽詰ったあまり楽しくはないときにも時間は早く過ぎるみたいだ。 そうこうするうちに、この日の午前中の時間はあちこちに電話を掛けているうちに終わってしまった。十一時半(通過点)が過ぎて十二時半(正確に12時28分10秒)になって僕は昼食をとった。レーズン入りのスティックパンを三本とサプリメントをペットボトル入りのコーヒー牛乳で流し込む。レーズンがちょっと気持ち悪かった。 パクパク、グビグビ。
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