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ビジネス街には駐車場というものが少ない。限られた人を除いて、誰もこんなところに車で通勤したりはしないのだ。僕の会社が入っているビルにも駐車場なんてなかったので、車はビルの正面の路肩に駐車した。僕の車の他には車は一台も道路の路肩になどは止められてはいない。 ビジネス街の四車線の道路には車もバイクも荷車も牛車も人力車もリクシャーさえ走ってはいない。信号待ちの車もなければ駐車禁止のステッカーを貼られた車一台もない。クールなサングラスをかけたメッセンジャーもいない。ついでに人影もどこにもなかった。  ○○府にある真昼のビジネス街にも誰もいなかった。街にはただ機能的なビルが並んでいるだけだ。  今の時点で僕に言えることは、この街がこの時間にこんな風になっていることは珍しいということだけだ。  僕は頭の中の耳に蓋がきちんと刺さっているかを確認した。腕時計がやかましく騒ぐだろうことがわかるからだ。 『株式会社回転コーポレーション』の本社はビジネス街の本通りに面したビルのワンフロアに入っている。東証一部上場してからこのビルに移転したのだ。 ビルが何階建てなのかは知らないけどそれなりに高さがある。何十メートルの世界だ。ちなみに隣のビルも同じくらいの高さだった。その隣のビルも向かいのビルと同じくらいだ。僕の本社が入っているビルの色は灰色で窓はぴかぴかのよくある鏡みたいなやつなんだ。ちなみに隣のビルも、隣のビルの向かいのビルも似たような感じだった。  この通りにある建物は全て機能的でいかにもビジネスライクな感じだった。  自動ドアが開いて、僕は本社に向かった。エレベーターに乗りながら、もしもル・コルビジュエがこのビジネス街のビルをすべて設計したらどんな感じだろうかと考えていた。あまり機能的ではないかもしれない。僕はル・コルビジュエが設計したビルに通うスーツ姿の人々を想像した。……ちょっとシュールすぎる。
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