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僕は仕事帰りかと訊こうとしてやめた。間抜けすぎる。これは何かのいたずらなのかもしれない。誰かがたちの悪い冗談を僕に仕掛けたんだ。 そう考えるとあらゆる疑問が解決するように思う。僕がこの三日間誰にも会わないのも仕掛けられたドッキリで、仕掛けた誰かは僕が右往左往するのを見て笑いこけていたんだ。今ここにいる女は彼女のそっくりさんでこの三日間の総仕上げとしてここにいるのに違いない。僕は女に親しげに話しかけたことを後悔した。ネームプレートとかもリアリティを出すために作り込まれているんだ。我が社の社長はくだらない罪のある悪戯が好きだしテレビ局とかも絡んでいるかもしれない。  僕は<ドッキリ大成功>みたいな看板がもうすぐ目の前に突き出されるだろうと思って身構えた。  僕が身構えていると彼女は笑った。何もない空間から突然物質が誕生したみたいに。どこかで見たことのあるような笑みだった。ファーストフード店の店員のそれよりも数段上位にある技巧的なものだ。でもなんにしてもその本質は変わらない。自然に見えるかどうかという違いがあるだけだ。  「広瀬道重ですね。夜分遅くに迷惑かと思いますが込み入った話があります」  彼女の技巧的な笑みが段階的に変化した。彼女の言葉使いは丁寧だったが敬称が抜けている。悪い予感がした。これから何か面倒なことが起こりそうな気配がある。  「申し遅れました。私は貴方のサポーターです。私のことはサポーターとお呼びください。」  これも冗談の一部なのか。  「もう薄々気づいていたと思いますが、この世界は終わることになりました。廃止されることが決定したのです。つきましてはこの世界の廃止にかかる事務的な手続きについての説明にあがりました」
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