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こういうのって本当に奇妙だ。現代において地域には近所付き合いがなくなり、個々が隔絶して生活しているみたいな認識があると思うんだけど、実際に僕は隣の人と積極的に付き合いたくないと考えていた節がある。僕は隣の誰かに迷惑をかけないように暮らす代わりに関わりあいを拒否してきたわけだ。それは単純にいやだったからで何者にも犯されたくないと思っていた。でもこうして私的な空間が誰かに干渉されて、隣のよく知らない誰かの部屋と繋げられるみたいなことになっているのに僕はなんとも思わなかった。頭の中に重い液体が入ってきていて思考を妨害している。 ガボガボ、ガボガボ。 めんどうくさい。 ちょっとしてから(正確に3分1秒)彼女が戻ってきた。左手には膨れ上がったゴミ袋を提げていて、右手にはエンジンが切れたチェーンソウを持っている。ゴミ袋もチェーンソウもリクルートスーツには似合わない。傘をさして行軍する陸軍くらい変だ。彼女はチェーンソウを床に放り出すと、ゴミ袋を逆さまにして中身をぶちまけた。中に入っていたのは食材で、キュウリやら半玉キャベツやらが転がった。他人の部屋から食材を取ってきたらしい。つまり山口や谷田の冷蔵庫を開けたということで、彼らは自分のアパートにはいなかったのだ。
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