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彼女は食材の中から卵と白葱、味醂に醤油に料理酒、それから油揚げと刻み海苔をキッチンの上に置くと、佐藤のご飯を電子レンジに入れた。そして僕に床の上にぶちまけられた食材を片付けるように指示した。 彼女が調理している間に僕は山口や谷田の物だった食材を自分の冷蔵庫に片付ける。彼女に指摘されたとおり冷蔵庫はひどいありさまだった。中にはコーヒー牛乳と冷凍うどんしか入っていない。ここには食べ物を貯蔵するという意志がなかった。もっと突き詰めれば生活がないといってもいいんじゃないかな。僕は冷蔵庫に僕のことをどう思っているのか訊いてみたけど冷蔵庫は答えてくれない。もしかしたら自分を正しく使ってくれていないことを怒っているのかもしれない。食材をつめてしまうと冷蔵庫は一杯になった。これで冷蔵庫の怒りが収まってくれるといいのだけど。だって誰かから怒りを向けられているのはあんまり愉快じゃない。それが人でも物でも犬でも同じだ。 作業を終えてしまうとなんだか手持ち無沙汰になった。というのも彼女の手際がよすぎたからだ。彼女は電子レンジでご飯を温めながら葱と油揚げと同時に刻み、その間にも油の敷かれたフライパンは温められていた。実に無駄がなかった。しかも彼女は卵を片手で割った。うちの店にアルバイトとして欲しいくらいだ。 僕は妙にそわそわしてしまってベッドの上に座った。こんなに居心地悪く手持ち無沙汰なのは右も左もわからない新入社員だったとき以来だ……といっても僕は入社二年目でしかないペーペーなんだけど。
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