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†††††
「あと五分……」
焦れたような少女の呟きが、夜風に乗って空高く舞い上がった。
腕時計を何度も覗き込んでは、前に確認したときから時間があまり経っていないことに小さく溜息をつく。
時計の針が、カチカチと微かな音を立てながら“そのとき”へと歩んでいく。滅多に身につけない腕時計をわざわざしてきたのも、そのときが来たという実感をより一層確かなものにしたいからだ。
毎年のことながら、いつもこの時間が愛しくて待ち遠しくてたまらない。
思わず口元が緩んで笑みを浮かんでしまうのを抑えて、少女は抱えているものを見上げた。
それは、少女の身長を越す大輪の花を咲かせた一本の向日葵だった。
辺りはまだ闇に包まれているが、季節のせいかどこか明るく感じられる。上空にはぽっかりと月が浮かんでおり、朧げに見えるのは時折頬を撫でていく熱風のせいだろう。
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