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「ちょっとあんた。」
けだるそうな男の人は私を見て言います。
心地好い男性特有のバリトンの声。
私は初めて会ったこの男性にたじろぎました。
この人は幽霊の私と違って影があるのですから。
私は考えました。
この人は特別“みえる”方なのではないのかと。
ですがこの人は私の肩を持っているのです。
しっかりとした握力で。
その手からは、生きている人間の様な温かみはありません。
どちらかと言えば、冷たくなった人間の身体のようです。
この人には体温というものは無いのでしょうか。
「あんた幽霊だよね、ちょっと来てくれる?大丈夫何にもしないから。」
とは言うものの、その言葉に説得力はありません。
そう言って連れ込むふしだらな男性も居るからです。
「いやいや、警戒しないでくれないかな。ほんっとに何にもしません。ただどう死んだか知りたいだけなんだけど。」
困ったようにその人は笑いました。
私は騙されたら駄目だと自分に言い聞かせました。
私は重い口を開きます。
「ダンプカーに撥ねられました。」
私の口はあっさりと死んだ内容を言いました。
男の人は少し驚かれています。
そして納得した様な声でまた私に話し掛けます。
「それはお気の毒に。あ、そうだ、そのダンプカーは青信号の時に突っ込んできた?」
ふぅ、その人は煙草の煙を吐き出しました。
満月の綺麗な夜に煙草の白い煙はよく映えました。
私はコクリと頷きました。
すると男性は小さく呟きました。
「あー………それ悪魔のせいかもよ?」
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