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俺が「あがって下さい」の一言を躊躇っていると、浜田さんは何か感じ取ったのか、「誰か来るんか」と尋ねた。
言うべきだろうか、藤原とのことを。
一度は気持ちを洗いざらい話したことがあるし、心配してくれているのも伝わる。
浜田さんから誰かに話が流れることもないだろう。
けれど、この付き合っているわけでもない曖昧な藤原との関係を、どう話すべきか…。
迷っていると、部屋の方で携帯が鳴った。
「鳴っとんで」
「いや、大丈夫す」
「ええよ。早よ出え」
促されて携帯を取りに行くと、藤原だった。
『もしもし?やっぱ迎えいくわ』
「…!!」
『聞いとる?』
「聞い、とるわ!来んでええゆうたやろ」
『何キレとんねん…。もう向かっとるから』
「は!?向かっ…ちょ、わかった、支度するからゆっくり来い!!」
『ほんでももう、』
何か言いかけた藤原を遮って電話を切り、慌てて浜田さんに駆け寄る。
「すんません…、藤原来ますわ」
「藤原?」
「はい、せっかく来てくれたのに、あの」
俺の慌てぶりを見て、浜田さんはニヤリと笑った。
「そういうことになったんか。よかったやん」
「いや…よくもないっすわ。何かよおわからん感じで」
「ほぉん、さよか。まぁまぁ、ほんなら帰るわ」
「ほんますんません。下まで送りますわ」
首からタオルを下げたままで、靴をひっかけて外に出る。
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