820人が本棚に入れています
本棚に追加
「ん」
差し出されたペットボトルの水を受け取る。
"終わった"あとに力の入らない俺に水を手渡すのは、いつの間にか決まったこいつの仕事。
ご丁寧に、蓋まで開けて。
それを何口か一気に飲みぼんやりしていると、藤原が隣に座り携帯を弄り出す。
慣れた手つきで操作するiphone。
画面が見えないように少しズレて座り直すと、藤原が空いた距離を埋めるように寄ってくる。
こいつが誰にメールしとんのか、ツイッターか、ブログかなんて知りたない。
煙草に手を伸ばす。
触れた太股に、自然に手を置く藤原。
煙草の煙を吐き出しながらも、その手が触れている部分に意識が集中する。
「手を置かれている」
そう思う。
自然だけど、人の手。自分じゃない。
俺たちは、他人や。
その事に、ホッとする。
他人の手だから、置かれていることに安心して。
距離があるから、埋めたくて求める。
溶けて一つになれたらいいなんて、死んでも思わへん。
藤原が携帯を見て、ふふっ、と笑った。
「重、めっちゃオモロい。あいつアホやな」
「そうやな」
俺は、お前の恋人でいたい。
おわり。
最初のコメントを投稿しよう!