阿佐ヶ谷炎上

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轟々と。 燃え盛る炎を見つめたまま、動けないでいた。 火元まで距離はだいぶあるのに、ほんのり顔が熱い。 少し先の通りは、この火事を見物に来た野次馬で賑わっていた。 孫の手を引いた婆ちゃんや、カメラ片手のおっさん。 風呂上がりなのか、首からタオルをかけた…あ、あれ春日だ。 「おい」 「ああ、アナタなかなか来ないと思ったらこんなところに」 「や、行こうと思ったら…ていうかお前だって来てんじゃねーかよ」 「そうでござんすね」 タオルをかぶり、わしわしと頭を拭きながらこちらに歩み寄る春日。 辺りは焦げ臭かったが、春日からはふわりとシャンプーのいい匂いがした。 「えらい騒ぎだな」 「な。あれ民家だろ?」 「みたいだねえ」 「消防車は?」 「まだ」 ぱんっ、 「…!!」 ガラスの割れる音と、つづいて野次馬の悲鳴。 春日が顔を向ける。 あーあー、 タオルから覗いた口元が、声には出さずそう呟いた。 炎に照らされた横顔。 夜だというのに、夕方かと思うほどのオレンジ色。
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