820人が本棚に入れています
本棚に追加
轟々と。
燃え盛る炎を見つめたまま、動けないでいた。
火元まで距離はだいぶあるのに、ほんのり顔が熱い。
少し先の通りは、この火事を見物に来た野次馬で賑わっていた。
孫の手を引いた婆ちゃんや、カメラ片手のおっさん。
風呂上がりなのか、首からタオルをかけた…あ、あれ春日だ。
「おい」
「ああ、アナタなかなか来ないと思ったらこんなところに」
「や、行こうと思ったら…ていうかお前だって来てんじゃねーかよ」
「そうでござんすね」
タオルをかぶり、わしわしと頭を拭きながらこちらに歩み寄る春日。
辺りは焦げ臭かったが、春日からはふわりとシャンプーのいい匂いがした。
「えらい騒ぎだな」
「な。あれ民家だろ?」
「みたいだねえ」
「消防車は?」
「まだ」
ぱんっ、
「…!!」
ガラスの割れる音と、つづいて野次馬の悲鳴。
春日が顔を向ける。
あーあー、
タオルから覗いた口元が、声には出さずそう呟いた。
炎に照らされた横顔。
夜だというのに、夕方かと思うほどのオレンジ色。
最初のコメントを投稿しよう!