阿佐ヶ谷炎上

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ウー ウー 「やっと来た」 けたたましいサイレンを鳴らして、消防車が通り過ぎる。 近付くと縮み、遠ざかると伸びる波長。 ドップラー効果。 ごう、 上がる火とともに、熱風が吹いてきた。 目を細める。 「…こんだけ燃えてたら、もう」 「まぁ飛び火は防げるんじゃないですか」 「あぁ…」 燃えさかる火。 炎上。 何かの終わりを見ると、思い知る。 大切なものを。 「なあ春日」 「うん?」 前を向いたままの横顔に問いかける。 「火事になったら、おまえ何持って逃げる」 一瞬きょとんとした春日が、すぐさまにやりとキャラを入れて俺を見る。 「そら勿論」 犯罪者のようなヤバい笑顔。 消火活動が始まった火事場から、あ、ぁ、と野次馬の声が聞こえる。 めきめき、 音を立てて、ゆっくりと屋根が崩れた。 上がる火の粉が、夜を照らした。 おわり。
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