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振り返る。
冬の入り口。
冷たい風が、ひゅっ、と吹いた。
もう、前と同じようには答えられなかった。
井本が、張り詰めた糸のような顔をしていたから。
あぁ。
「好き」って、そうゆう「好き」か。
俺の中で、答えが出た。
きちんと答えよう、と思った。
がしゃん。
引いていた自転車を止めた。
井本の表情が強張る。
俺は、体ごと井本に向き直り、言った。
「おん。お前が好きや」
「…ふじ」
「友達やなくて」
こいつは、知っとったんやな。
鈍感な俺なんかより先に。
待たせてごめんな。
その時の井本の顔は、一生忘れない。
めちゃくちゃかわいい顔で。
嬉しいのと恥ずかしいのと、あとちょっと泣きそうなのと、
全部ごっちゃになったような顔で。
幸せそうに笑ったんや。
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