820人が本棚に入れています
本棚に追加
こんなんじゃダメ人間になる。
そう言って、お互いに急かし合って服を着た。
「セックス廃人だ」
「そうね」
「暇な大学生みてえだもん」
「ははは」
外に出ると、からりと冷えた夜の空気が心地よかった。
さっきまでの部屋の中が、男二人の熱気でどれだけ蒸していたかを思って、思わず笑いが漏れる。
並んでマンションのエントランスを抜ける。
と、不意に若林が「あ」と小さく呟いた。
顔を上げ視線をたどると、こちらに向かってくる男が一人。
こちらに気づいていない様子の、マンションの住人らしき青年。
顔見知りだろうか。
声をかけようか迷っている様子の若林に、男が気付いて即座に「おー!」と手を挙げた。
「あ、どうも、こんばんは」
「こないだはおおきにー。出掛けるん?」
「はい、…えっと、お仕事ですか」
「おー、残業やってん。むっちゃしんどい」
関西弁。
なんだか見たことがある気がしたが、気のせいだろうか。
会話に参加するでもなく、手持ち無沙汰に傍らに立っていると、男が人懐こい笑顔を向けてくる。
「こんばんはー」
「どうも、こんばんは」
あ
唐突に思い出した。
同時に、胸の奥がざらりとするような複雑な気分になる。
.
最初のコメントを投稿しよう!