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異邦人、とまでいかなくてもいい。
知らないところに。
味方も誰もいないところにいきたい。
右も左もわからない、そんなところに放り出されたい。
たったの、独り。
おもしろいじゃあないの。
その時、てめえも知らない自分自身に出逢えるかもしれない。
そんな願望に。
ときおり、不意に囚われることがあった。
“関西の大学を受けようと思ってる”
高校三年の、帰り道。
行きつけのパン屋POPで買ったソーセージパンを頬張っていた若林に、突然伝えた。
はっきり思い出せる。
三口目を食べようと開いた口がパンからゆっくり離れて、小さく「うそ」と動いたこと。
真っ黒のガラスみてーな丸い目が、丸く見開かれてゆらゆらと揺れていた。
その若林の表情を見て初めて、自分の発言は思ったより衝撃的なものだったかもしれないことに気付いた。
一瞬にして食欲をなくした様子の若林が、パンをビニール袋に戻す。
ふしゃ、と薄いビニールが音を立てた。
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