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「ふー…」
暦の上では春とはいえ、夜はまだまだ寒い。
吐く息が微かに白いのを確認して、胸の前で腕を組み直した。
ちらり、
携帯で時刻を確認する。
デジタルの数字が表すその時刻が思っていた以上に深くて、明日の仕事のことを考えてしまう。
と、かすかにジャリジャリとアスファルトの擦れる音。
携帯から視線を上げると、街灯に照らされた道のかなたに人影が見えた。
顔なんか見えやしないが、歩き方ですぐにわかる。
少し酔っているらしいその影が、右に左にとゆらゆらしながらこちらに向かってくる。
かなり近くに来てやっとこちらに気づいたのか、小さな目を丸くする。
「何おまえ、気持ち悪りぃ」
「何がよ」
「待ち伏せとか、引くわー」
こわぁ~い、と大げさに身を捩らせる。
ひゃはは。
力の入り切らない笑い声が、深夜の住宅街にこだまする。
やっぱり相当酔っている。
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