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彼女がここに来るときに使用した扉とはまた違う、ちょっと特殊な扉。
ぎい…っと鈍い音をたてながら開いていく扉を感覚で捉えながら、私は彼女に話しかけていた。
「契約は成立したわ。アナタから頂いた代償は…アナタがいままで培ってきた時間。つまり記憶よ」
「記憶?」
「まぁ、いまはまだその意味がわからないでしょうね」
そう言って苦笑する私を、彼女は不思議そうに眺めていた。
「さぁ、アナタを時間の世界へ招待いたしましょう。いらっしゃい?アナタの望む世界へ」
差し伸べた手を軽く握り、私のあとに続く彼女。
躊躇いも恐怖もないのだろう。
扉をくぐる寸前で、私は足を止めてもう一度彼女を見た。
ひとつだけ、まだ訊いていないことがある。
「ねぇ、ここで出逢ったのも…何かの運命だと思わない?」
「……?」
わからないといった顔をして困った様子の彼女に、私はそれでも続けた。
「私はアナタに名乗ったけど、よく考えたら私はアナタの名前を知らないわ。…せめて、お互いの名前を知るくらいはしておきたくない?」
それもそっか…と小声で呟き、やがて笑顔で私に言う。
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