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からん。
ちっぽけな鈴の音が、決して広いとは言い難い店内に響き渡る。
きょろきょろとあたりを見渡して入ってきたのは、制服姿の女の子だった。
見受けられる印象から、おそらく彼女は高校生なのだろう。
彼女は一通り店内を見渡して、ようやく私に気付いたようだ。
「あなた…誰?私、帰宅途中だったはずなのに…ここは?」
少々混乱した様子の彼女は、首を傾げながら私に問いかける。
毎回のようにされる質問。
まぁ、無理もないだろうと思い、近頃はこの問いをすんなり受け入れている自分がいる。
「ここは、ちょっと特殊なお店よ。私はこのお店の店主」
「…お店?」
「そう。ここは『時間屋』。そして、人は私をメルフィと呼ぶわ。アナタに…望む時間を与えましょう?」
私はいま、一体どんな顔をしているだろうか。
こうやって、私は人々を天国に地獄に、その歩む道を惑わせてきた。
その度に、後悔とも悲しみとも言えない感情が込み上げてくる。
答えの見えないこの感情は、なんとも寂しい。
彼女はそんな私の胸中など知る由もない。
ただただ、首を傾げたまま私の顔を凝視しているだけだ。
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