4人が本棚に入れています
本棚に追加
一瞬、強く背中を打ったように息が詰まる。
おれは虎次郎から目をそらすことすら出来ず、放心状態でただただ見ていた。
だけど驚くことに、虎次郎はそのメールを見ると、一瞬優しそうに笑った後、携帯を閉じた。
「え……返さなくて……いい、のか?」
おそるおそるといった表現が、今のおれには一番合っていたと思う。
弱々しくかすれながら震える小さな声で疑問を投げかけた。
虎次郎はそっと携帯をしまいこむ。
「緊急じゃないからメールなんでしょ? 後で理由を話せばわかってくれるから」
虎次郎は「それに……」と続けた。
「今は、武蔵が心配だから。具合悪い以前に元気もなかったみたいだし」
「ね?」と笑いかけてくる虎次郎に今度は別の意味で心臓が圧縮された。
どうしよう。
嬉しい。
おれを優先してくれたことが嬉しい。
そのあどけない笑顔が愛しくてたまらない。
胸がきゅう、と音を立てて締め付けられる。心地よい苦しさだった。
おれの全身の細胞が目の前のこいつを愛しいと叫ぶ。
もはや体中に循環しているその愛しさがこみ上げて、涙が出そうになるのを感じた。
もしも気持ちが涙のように本当に溢れるのならば、もう既におれの思いで飽和状態になっているこの部屋で、おれたちは溺れ死んでいると思う。
衰えることを知らずに、日々大きくなっていくこの想い。
何度も消してしまおうと考えた。前に踏み出そうともした。
けれど、優しくしてくれるから――時には自分を一番にしてくれるから――。
おれは結局逆戻りの繰り返しをする。
おれにとってこいつは、天使なのか。それとも悪魔なのか――。
そんなのどうだっていい。
例え虎次郎が死神だったとしても、おれの気持ちは変わることはないんだろうと思った。
会えない苦しみよりも、会う苦しみを選んだ。
どんなに恐怖して恐れても、おれはそれを目の前で見て、受け止めると決めたんだ。
行きつく先に待ち受けるのは鬼か、蛇か――。
親友という位置を守り続けることにより、傷口があげる悲鳴から耳を塞ぐ。
その度に上から何度も絆創膏を重ねていく。
いつか反動が来たとしても。それでもいいと思った。
今はただ、自分だけに向けられている目の前の笑顔と、先程の手の感触の余韻に浸っていたかった――。
--END--
最初のコメントを投稿しよう!