位置

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 一瞬、強く背中を打ったように息が詰まる。  おれは虎次郎から目をそらすことすら出来ず、放心状態でただただ見ていた。  だけど驚くことに、虎次郎はそのメールを見ると、一瞬優しそうに笑った後、携帯を閉じた。 「え……返さなくて……いい、のか?」  おそるおそるといった表現が、今のおれには一番合っていたと思う。  弱々しくかすれながら震える小さな声で疑問を投げかけた。  虎次郎はそっと携帯をしまいこむ。 「緊急じゃないからメールなんでしょ? 後で理由を話せばわかってくれるから」  虎次郎は「それに……」と続けた。 「今は、武蔵が心配だから。具合悪い以前に元気もなかったみたいだし」  「ね?」と笑いかけてくる虎次郎に今度は別の意味で心臓が圧縮された。  どうしよう。  嬉しい。  おれを優先してくれたことが嬉しい。  そのあどけない笑顔が愛しくてたまらない。  胸がきゅう、と音を立てて締め付けられる。心地よい苦しさだった。  おれの全身の細胞が目の前のこいつを愛しいと叫ぶ。  もはや体中に循環しているその愛しさがこみ上げて、涙が出そうになるのを感じた。  もしも気持ちが涙のように本当に溢れるのならば、もう既におれの思いで飽和状態になっているこの部屋で、おれたちは溺れ死んでいると思う。  衰えることを知らずに、日々大きくなっていくこの想い。  何度も消してしまおうと考えた。前に踏み出そうともした。  けれど、優しくしてくれるから――時には自分を一番にしてくれるから――。  おれは結局逆戻りの繰り返しをする。  おれにとってこいつは、天使なのか。それとも悪魔なのか――。  そんなのどうだっていい。  例え虎次郎が死神だったとしても、おれの気持ちは変わることはないんだろうと思った。  会えない苦しみよりも、会う苦しみを選んだ。  どんなに恐怖して恐れても、おれはそれを目の前で見て、受け止めると決めたんだ。  行きつく先に待ち受けるのは鬼か、蛇か――。  親友という位置を守り続けることにより、傷口があげる悲鳴から耳を塞ぐ。  その度に上から何度も絆創膏を重ねていく。  いつか反動が来たとしても。それでもいいと思った。  今はただ、自分だけに向けられている目の前の笑顔と、先程の手の感触の余韻に浸っていたかった――。   --END--
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