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「おれは平気だから早く電話出ろよ。なにか緊急な内容かもしれないし」
いつもの口調でそう言うと、虎次郎は安心したように「ごめん、ちょっと外すね」と椅子を立った。
「もしもし?」
それでも辺りが静かなせいで虎次郎の声が所々聞こえてきてしまう。
会話の相手が誰なのかわからない。
それでも頭の中で思い浮かんでしまう、相手の顔。そうと決まったわけではないけれど。
もしかしたら、また傷つくことになるかもしれない。
それでもおれは耳を塞ぐことが出来なかった。
決して好奇心なんてものではない。そんな簡単な気持ちによるものだったら、どれだけ楽だっただろうか。
おれは、現実と向き合うために耳を塞がなかったのだ。
そんな時聞こえてくる会話の一部。
「……全く、おれがいないと本当にダメなんだから――」
ああ。
やっぱり。
聞くんじゃなかった。
天井をぼんやり見つめる。
目頭が熱く感じるのは……風邪のせい。
それからの虎次郎の声はやけに遠くに感じた。
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