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周りに見えるのは木。
右を見ても左を見ても後ろを見ても、視界に入るのは木。
辺りは薄暗く、夕方かと錯覚してしまう。それは木が生い茂っていて太陽を遮っているせいである。
耳を澄ますと鳥のさえずりや風に吹かれ木が葉を揺らしながら音を立てているのが聞こえた。
所々では花を咲かせている木もあり、蕾をつけた枝もたくさんあることから今は春だと断定できる。
そんなのどかな風景の中に俺はいるのだ。
俺は自分が落ちてきた穴があるであろう、上を見上げる。
そこには暗闇に満ちた穴が小さくなっていっていた。
そしてビリッと音を起てるとその穴は何もなかったように消え去り、代わりに木が俺の視界を覆った。
うん、森だよな。でも俺が知ってる、あの森じゃない。
なんだ?
わけがわからず自分の黒い髪をくしゃくしゃと掻きむしる。
「なんだったんだ?」
軽くぼやきながら再度周りを見渡す。
「どこだここ?」
立ち膝で周りを見ていたが、今度は立ち上がる。その時腰に差している剣が音を立てた。
さっきより高い位置で見渡すが状況は何も変わらない。俺以外誰もいないらしい。
「誰かいませんか?」
この森の中を俺の声が突き抜ける。いや、本当に突き抜けているのか?
「とりあえず歩くか」
返事がないことにため息をついて、辺りを再度見渡す。
「しっかし宛てもないのに歩き回るのは危険だしな……」
俺の目線は自分の左腕。正確には左腕の下のじいさんにもらった剣に移る。
そして剣を腰から抜き、地面に垂直に立てる。
それを垂直に立つように少しずつ調整して、
「じいさん頼むよ」
困ったときの技。ようはあてずっぽで行き先を決める。
剣は重量のまま地面に倒れていく。
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