夏の匂い。

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小一時間程歩いただろうか。 見上げても直射日光の眩しさは届かないほど奥まった場所。すっかり森の中に入ってしまったけれど、そこは昔馴染んだ場所だから臆する事もなく歩き続けた。 「あったあった。」 拓けた視界の先、見える景色に懐かしさが込み上げてくる。 さらさらと流れる川の水に清涼感を得て、気持ちも涼しく穏やかなものになる。 「変わんねーな~」 昔のままの景観に安堵して。 この辺りも徐々に開発の手が入り始めているらしい。その話しを耳にした時は残念な気分になりはしたが、そんな思いも日々薄れていって。 記憶にある景色と変わらない事に、改めて胸を撫で下ろした。 さっきまでのイライラが嘘みたい。 自然は偉大だなー、なんて。普段、生活に追われて忘れてしまいがちな事をぼんやり思う。 来てよかった。 大きな岩の上に腰掛けて、伸びをする。深呼吸ひとつでこんなにも清々しい気持ちになれるんだから。 .
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