夏の匂い。

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「ん?」 なにか聞こえた気がして、川の上流に目をやると水しぶきが上がるのが見えた。 近所の子供でも遊びに来ているんだろうか。だけど数人で騒いでいるような気配は無さそう。 大人の足でも苦労する場所だ。こんな奥まで入り込むヤツはなかなか居ない。 子供だけで上流に行ってはいけないと、うるさい位に言われた記憶がある。そんなの気にせず入り込むのは地元の人間じゃない俺くらいだったっけ。 なんとなく気になって、上流へと足を向ける。 近付くにつれ、人の気配は確かなものになる。 隠れることまではしないけれど、なんとなく息を潜めて様子を窺がってみると そこに居たのは ひとりと一匹。 犬の散歩か?? 上半身裸で水浴びしてる。 まあ暑いからしょうがないか。 連れてる犬は草むらで寝そべってる。普通逆だよな。犬ってもうちょい元気なイメージだけど。 飼い主の方がきゃっきゃと水遊びしていて、時折川辺に向けて水を飛ばすとなんとも迷惑そうに体を震わせ水滴を払っている。 その様子が面白くてそのまま眺めていたら、犬の方と目が合った、気がした。 遠目だからよくわからないけど。 吠えられるかと思ったけどそんなことは無くて 再びペッタリと体を横たえた。番犬向きじゃねーな。まあ吠えられても困るけど。 すると、今度は飼い主の少年がこっちを見た。 驚いた顔してる。 くりくりとした目が印象的な、遠目に見ても美人だなってわかる顔立ち。…男相手に美人って表現もどうかと思うけど。 すっかり固まってる様子の彼。人なんて居ないと思ってたんだろうな。俺もそう思ってたし。 ……気まずい。 どうしたもんかな…。 このまま立ち尽くしてるのもなんだし、声を掛けてみようか。 でも、なんて? コンニチハ。 で、それから…… 人に声を掛けるってこんなに難しいことだったか。 …俺、緊張してる。たぶん。 理由は分からないけど。
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