夏の匂い。

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雨宿りしてる場所は、小さくて古びた小屋の中。 生活の匂いはまったくない。毛布とかあればいいのに。なんて無理な話しか。 なら、せめて。 「ねぇ、着替えたら?その格好じゃ風邪引く。」 無造作に放ってあった荷物を手繰り寄せる。 数日分の着替えやら何やら詰め込んであるバッグ。この状況にはちょっと便利かも。 「これ着てなよ。」 「……ありがと」 押し付けるように手渡した服を受け取り、ぼそりと呟いた声は思ったより低音でしっかり男の声だった。 や、わかってたけどさ。 ちょっとね。 うん。残念だなって。 着ていた服を豪快に脱ぎ始める、けして華奢ではないけれど色白で綺麗な体。思わず視線を逸らした。男の生着替えに動揺してる俺って…。 気まずい! 「えっと、…このあたりに住んでるの?」 「うん。」 「…その犬、飼ってるの?首輪ついてないけど」 「ちがうよ、コイツは俺の相棒。」 「…ふうん。」 相棒ねぇ。 「…なあ、覚えてねえの?」 「え?今なんて、」 「ほんとに忘れちゃったんだね、俺らのこと。」 なんの話し? 着替え終わった彼は胡坐をかいた足の上に犬を抱き上げる。なんとなく迷惑そうな顔に見える『友達』の背中を撫でながらつまらなさそうに口を尖らせた。 「どっかで会った?」 「うん。ずーっと昔だけどな。お前が今の半分くらいちっさかったとき。」 「…そうなの?」 そういえば、最後にここに遊びに来たのは小4の夏だったっけ。 「…ごめん、思い出せない。」 「いいよ別に。お前のせいじゃないもん。忘れさせたのこいつだから。」 「……は?」 「得意なんだよ、催眠術。」 「……」 もしかして、バカにされてる? .
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