夏の匂い。

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何と言うか…、不可解な。 返す言葉もなくただ沈黙が流れる。 からかうようなそぶりもなく、当たり前の事みたいに云うけど。 だって犬でしょ? 犬が催眠術なんて、どうやって。 「あ、雨あがったみたい。」 彼の言葉通り、いつの間にか雨音は止んでいた。なんだか残念で仕方ない。 「また降り出さないうちに帰った方が」 「もう行っちゃうの?」 「ん、なんだよさみしい?」 外を眺める横顔がこちらを向いた。 そんな訳ない、そう言えたならまだマシなんだけど。 初対面のはずの彼と、もっと一緒にいたいって思うのはどうしてだろう。 こんなに気になるんだ、彼が言うようにもしも出会ったことがあるとすれば絶対に忘れるはず無い。 だけど記憶に残っていない。それが無性に悔しい。 可愛らしい造りの顔をじっと見てたら「なんだよ」って首を傾けた。まるで小動物みたいな仕草がとても似合う。どう見ても男なのに可愛らしいとしか思えないのは、彼の外見と醸し出す雰囲気のせい。 「しょうがねぇなー。 お前そういうとこ昔っから変わんないのな」 苦笑混じりのその口調に少しだけムッとした。 「俺の何を知ってんのさ」 「そりゃあいろいろ…、夜の森に迷い込んでわんわん泣いてたり、ガッコーで嘘つき呼ばわりされて泣いてたり、あとは…」 「…もういい。」 泣いてるとこばっかじゃん…聞いてて恥ずかしくなる。 子供の頃の記憶ってかなり曖昧だけど、 「俺、そんなに泣き虫だった?」 「うん。お前が泣くのって、俺らの前でだけだったみたいだし、一緒に忘れちまってんだな。」 「なんか…めんどくさい子供だったんだね、俺。」 「なんで?可愛かったよ?」 「……そ。」 俺から見たら相当可愛い目の前のひとに、昔の俺は気に入られていたようだ。 .
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