マリアは断罪されたか

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自分の故郷の事や、罪を犯す前は何をしていたかなど、他愛もない話題ばかりだが、この数時間で俺は確実にギルベルトという人間に惹かれていた。今まで見てきた死刑囚とは違う…死を快く受け入れるおかしな死刑囚、ギルベルト。じわりじわりと確実に俺の心を蝕み始めるこの感情は、一体。 「おーい、聞いてんのかよ」 「…あぁ…」 ジャラ、とギルベルトの手錠に繋がれた鎖が立てた金属音で、意識が現実へと引き戻される。 「お前、なんかさっきから上の空だぜ?」 ルビーにも似た深紅の瞳が俺の視線を捕える。死刑囚とは本当に思えない、澄んだ瞳。ギルベルトの瞳は、幼い頃教会で見た聖母マリアを思わせるような清らかさを纏っている。女のように細い体、少し固そうな質感の短い銀髪、緩やかに弧を描く薄桃色の唇。全てが神聖なモノのような気がして、ルートヴィッヒは目を伏せた。 ―俺のような汚れた者が手を下して良いのだろうか? ルートヴィッヒは、両親が敬謙なクリスチャンで昔から厳しい戒律の元に育てられてきた。故に、少々歪んだ宗教的価値観を持ち合わせている。その宗教的価値観を見直す為、或は両親にとっての“良い子”から逃げ出す為に、死刑執行人という血染めの道を選んだのだ。 カチリ、と時計の針が動き死刑執行を告げる鐘が鳴った。 ギルベルトの手錠に繋がる鎖を他の者に引き渡し、処刑が行われる部屋へと入る。13段ある階段を上るギルベルトの後ろ姿を見つめ、スイッチのある部屋へと移動し機器の異常がないかチェックして処刑台を見ると、ギルベルトはただ静かに、そこに居た。
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