日陰に咲いていた花

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そこには、誰も居なかった。ここは確かに兄の部屋なのに。 床を見ると、薄く埃が積もっている。ベッドシーツはきちんと畳まれているが埃が積もり、長い期間使われていないという事を示していた。ベッドサイドのチェストにある、古ぼけて傷だらけになった鉄十字。 自分の首元に手をやるが、ちゃんと鉄十字がかかっている。兄は鉄十字を肌身離さずに持っていた。だからこの鉄十字がここにあるという事は。なら、今までの兄は何だったのだ?幻覚?妄想?様々な考えが浮かび上がり、兄の鉄十字を握りしめて床にへたり込んだ。 「ドイツ…」 不意に開いた扉から、オーストリアの声がした。振り向くと、扉の近くにはオーストリアだけでなく、ハンガリーや日本、イタリアも居た。 「オーストリア…兄さんは…」 「…やはり…まだ、受け入れきれていないようですね…」 ハンガリーが、横に座り込んで俺の手の中にある鉄十字を眺めて、ゆっくりと呟いた。 「……あいつ…プロイセンね、消えたのよ…もう、ずっと前に」 「…っ…じゃあ…俺が今まで見てきた兄さんは…ッ…!」 「…最初から誰も居なかったのよ」
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