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 僅かな光が照らす、闇の中。  男は手の中の発煙筒に、音高く火をつけた。  それは勢い良く燃え上がり、白い煙を撒き散らす。火と白煙に明るく照らされた男の顔は、奇妙に歪んでいた。  やがて男は、発煙筒を地面へと投げ放つ。狭いトンネル状の通路は、すぐに煙で満たされていく。  それを見届けた後、男は煙に背を向け、ゆっくりと闇に向かって歩き出した。  しばらくの後、煌々とした電車のヘッドライトと、やかましいほどのブレーキ音が薄闇を切り裂いた。  そしてやがて、ホームには電車が停止した旨のアナウンスが流れることだろう。  それを確信した男は、今度こそはっきりと歪んだ笑みを、その顔に浮かべていた。
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