暗雲

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自分の店を持って、 それが軌道にのってから プロポーズしたいと彼は常々言っていた。 だから、出店準備が滞るということは 結婚に近づくこともないということだ。 だけど、本当に結婚に焦りはなかったから そこに不満は感じない。 そういう理由もあって、 気になってはいたけれど その後、出店準備はどうなのかという 質問をすることはなかった。 本能が避けていたのかもしれない。 楽しいことだけに目を向けるべきだ、 気掛かりな点があっても 追求してはいけないと、 心ではなく体が そうさせていたのかもしれない。 けれど幸せに過ごしているはずの二人に、 あの時感じた不安は 着実に雨雲のように 二人を覆っていたのだ。 そして、そのことに気づくのには それから数ヶ月を要した。
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