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「ふぁ…」
大きな欠伸。
それはタクシーに乗り込んですぐの事だった。
『お客さん、寝不足ですか?』
ほんのりとタバコの匂いをちらつかせる運転手が、目を向けずに声を掛けて来た。
「あ、はい」
帰り道くらい寝させてほしい気持ちでいっぱいだが、聞かれたなら答えるしかない。
『お若いのに…肌に悪いですよ?』
分かってる、そんなこと。
一応17だし、中年のオジサンよりは分かってると思うんだけど。
「バイトで家庭教師をやってるもので…」
『そうなんですか!?それは素晴らしい。
出身校もすごい所でしょう?』
やっぱり出た。
人はすぐ出身校を聞きたがる。
少し家庭教師をやってるだけですぐ名門校出身だと解釈する。
あたしはこういうのが嫌で、
[普通中の普通]の学校に入学した。
成績はいつも5位以内。
髪をどれだけ染めても、
ピアスをいくつ着けても、
誰もあたしを咎めることはない。
少しはっちゃけたこの生活を保つ為には、
こうやって自分の能力を引き出しでもしないとやってられない。
「…まあまあ、です」
大きな溜息をした後、運転手は何も言わなくなった。
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