冒頭

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 この学校には、伝説が居る。  それを知ったのは約一週間前、相馬が生徒会長に当選し、その引継ぎ会でのことだった。 「ねえ、『漆黒のエジソン』って知ってる?」  絡んできた前会長さんは、上機嫌な口調でそう言った。  今居る場所は学校からほど近いところにある大手ファミリーレストラン。一見中学生に似つかわしくないその場所だが、一応教師も『一年に一度だけだから』と黙認しているようだし、別に問題無いと言えば問題無い。生徒会役員は全校生徒たちから選ばれた存在だから、という理由もあるかもしれないが。 「……漆黒の、エジソン?」  相馬はというと、尊敬する人物の口から出た言葉の意味が分からずに、そのまま返しまった。 「あれ? 知らない? まったく?」  不思議そうな顔の会長さん。けど、やっぱり脳内にそのような単語はなかった。相馬は曖昧に頷いた。 「……は、はあ」 「そうか、知らない人いるんだね……って、まあ俺も最近知ったんだけどね、ははは」  人のこと言えないけど、と会長さんは頬を緩ませる。 「じゃあ……へんなこと聞くけどさ」  そう前置きし、今度はこんなことを訊いてきた。 「この前の期末考査、『学年一位』って誰だったかわかる?」  相馬たちの学校では、テストの度に各教科の点数や合計での学年順位が記されているプリントが担任より手渡されるのだ。それに親からサインをもらい、間違いやミスの有無を確認して再び提出するというシステムをとっている。  相馬は自分の成績で一喜一憂くらいはするが、別に上位が誰かとかは特に興味がなかった。聞かされれば、感嘆くらいはするだろうけど。  相馬が素直に首を振ると、会長さんは、待ってましたいわんばかりに、 「実はね、その一位のひと……」  言葉をためてから会長さんは言った。 「過去すべてのテストで、一位をとり続けてるんだって」 「え……」  待てよ、と思った。  ……それ、めちゃくちゃすごいことなんじゃないのか? 「でね、さらにその娘――ああ、女の子なんだけどさ……」  唖然していたせいか、会長さん少し笑われてしまう。 「なんと、普段学校来てないんだって」  追い討ちだった。  豆知識を楽しげに披露するような口ぶりだが、それとは裏腹な内容だった。思うところがある相馬は、言葉を失ってしまう。
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