冒頭

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 それって……。  そんな相馬を裏腹に、もしかしたらさ、と会長さんは続ける。 「その娘、テストの日にしか登校しないんじゃないかな。まあ、で、いつの間にか『天才』っていうアダ名が定着した、とか」  彼は自身のグラスに口をつけた。 「で、『漆黒』っていうほうはさ、いや、俺も実際に見たことないんだけど、」  彼は自身の髪の毛を触る。少し癖のついた、先天性のブラウン。 「……たぶん、髪の毛の色とかからなんじゃないかな」  漆黒、漆のように鮮やかな黒。  俺とは反対だね、と会長さんは笑った。 「ほら、よくあるじゃんそういうやつ。人ってイメージで結構きめるじゃん。だからたぶ……」  ――会長さんの言葉はそこで打ち切られた。 「よっ、会長に相馬! 楽しくやってるか?」 「ちょ……、のし掛かんなっ、重い首折れるっ」 「そういえば会長! ……あ、元のほうね。記念撮影したいんだけど、あとでみんな集めてくれない?」 「え、なに? なにを集めろって?」  元役員さんたちがなだれ込んできたのだった。揉みくちゃにされる会長さん。 「お、おい、会長のグラスに、例のいちごミルク飲んでた痕跡があるぞ!」 「すげえ!」「あの甘ったるくて飲めないと評判の『人間への片思い』を飲み干した、だと……っ!」 「うっさいお前ら俺が甘党なの知ってるだろ!」  辞してもやはりその人望は霞まなかったようだった。  傍から見ているとすごく微笑ましい光景である。思わず相馬も頬が緩んだ。  でも……こんなふうにいってるけど、この人たちはみんな、心のどこかでは彼のことを尊敬して―― 「おい誰かコーラもってこい! 炭酸で涙目になる中三男子が見れるぞ!」  してない気がしたのは、読んで字の如く、気のせいだと思うことにした。  そんなこんなでうやむやになってしまい、これ以上聞くことはなかった、この話。  頭の隅に追いやられたそれが思考回路に戻ってきたのは、引き継ぎ会が終わった、その帰路でのことだ。
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