冒頭

4/5
前へ
/36ページ
次へ
『漆、黒、の、エ、ジ、ソ、ン』  ――不意に、相馬の脳内でそんなテロップが流れた。  あたりは十二月を如実に表すように、な気温だった。雪でも降るんじゃないかというくらい寒い。  そんななか、相馬は歩きながら考え事をしていたのだ。  内容は勿論生徒会のことで、自己紹介の言葉どうしよう、とか、明日初仕事としてなにをやろうか、とか。  しかし前者はともかく後者はなかなか思いつかず、ひとまず後回しにして自身のマニュフェストについてに移行していた。  候補者が当選後に実行する策を予め公約しそれを明確に知らせるための声の意味で使われるというのが、マニュフェストと呼ばれるものだ。近頃の選挙では確実に使われている。相馬も会長の選挙で、それを口にしている。  その主な内容として掲げたのは三点。まず生活態度の徹底、次に時間の管理……。  ここまでは平凡だが、次は我ながら珍しいと思う内容で、それを頭に浮かべた途端、さっきのテロップが駆けたのだ。  それと同時に、思考回路はすぐさま会長さんの話に辿り着いた。  過去の試験で、すべて学年一位をとり続けている天才少女。そのイメージからついたという、漆黒というネーミング。それらを合わせて、『漆黒のエジソン』……。  つまり、相馬が三つ目に挙げたのは、不登校についてだったのだ。  それは、生徒会長に就任する身として、最も気にかけているうちの一つ。もちろん、無下にはやし立てているわけではない。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加