遭遇

2/11
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
 ――罵声。  呆然。唖然。  スピーカーから聞こえてきた凛と尖ったような声は、脳内の対処域を超えるような内容だった。  ……えーと?  なんだ? 今の……あ、そうか。これが幻聴ってやつか。 なるほど。ここの住所聞きに走り回ったりしてこの一週間は忙しかったから、疲れてるのか。  よし、……じゃあ、気を取り直して。 相馬はベルのマークが印してあるボタンを、ゆっくりと押す。 「あ、あの、突然の訪問で申し訳な――」 『貴様聞こえなかったのか帰れと言ったんだ』  相馬の声を遮ったのは、さっき聞いたような声だった。  あれ……、ってことはやっぱり幻聴なんかじゃないのか。まあそう簡単にそんなものは聞こえないだろうけど。  でも、現実だとしたら、なんかものすごいこと言われた気がするのだが……。  なんてことを相馬が考えているそのうちに、流れ出る声の語調がどんどん荒くなってきていた。 『――日本語がわからないのなら、英語でも、ドイツ語でも、フランス語でも、なんならスペイン語でもかまわない。Go back to the home, Kommen Sie schnell zurчck !  Revenez rapidement ,Vuelva rаpidamente,だ! これでも通じないとなるとここに翻訳家を呼ぶことになるが、そちらの――わっ、ちょ、なにをっ』  少女の声が打ち切られ、次にガタッという音がした。ノイズのような電子音だけが残る。 「な、……?」  相馬が怪訝に思っていると、すぐに、今度はさっきとは別の声が流れてきた。 『もー、失礼でしょ、凪ちゃん――あ、もうすいません、うちの子が。さっきだって私が止める間もなく切っちゃうんだから……』  声から察するに、どうやらお母様……か。 「あ、あの……」 『――あ、ごめんなさい。名茨君だったわよね? えーと、……って、こんな寒い中で立ち話もなんですよねえ』
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!