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――罵声。
呆然。唖然。
スピーカーから聞こえてきた凛と尖ったような声は、脳内の対処域を超えるような内容だった。
……えーと?
なんだ? 今の……あ、そうか。これが幻聴ってやつか。 なるほど。ここの住所聞きに走り回ったりしてこの一週間は忙しかったから、疲れてるのか。
よし、……じゃあ、気を取り直して。
相馬はベルのマークが印してあるボタンを、ゆっくりと押す。
「あ、あの、突然の訪問で申し訳な――」
『貴様聞こえなかったのか帰れと言ったんだ』
相馬の声を遮ったのは、さっき聞いたような声だった。
あれ……、ってことはやっぱり幻聴なんかじゃないのか。まあそう簡単にそんなものは聞こえないだろうけど。
でも、現実だとしたら、なんかものすごいこと言われた気がするのだが……。
なんてことを相馬が考えているそのうちに、流れ出る声の語調がどんどん荒くなってきていた。
『――日本語がわからないのなら、英語でも、ドイツ語でも、フランス語でも、なんならスペイン語でもかまわない。Go back to the home, Kommen Sie schnell zurчck ! Revenez rapidement ,Vuelva rаpidamente,だ! これでも通じないとなるとここに翻訳家を呼ぶことになるが、そちらの――わっ、ちょ、なにをっ』
少女の声が打ち切られ、次にガタッという音がした。ノイズのような電子音だけが残る。
「な、……?」
相馬が怪訝に思っていると、すぐに、今度はさっきとは別の声が流れてきた。
『もー、失礼でしょ、凪ちゃん――あ、もうすいません、うちの子が。さっきだって私が止める間もなく切っちゃうんだから……』
声から察するに、どうやらお母様……か。
「あ、あの……」
『――あ、ごめんなさい。名茨君だったわよね? えーと、……って、こんな寒い中で立ち話もなんですよねえ』
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