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「だから、私達は普通に普通じゃないんだよ」
始まった、始まった。こいつの得意な言葉の綾取り。ガキの小便臭い、哲学気取りの屁理屈。
「私の普通はあなたの普通とは違う。つまり人それぞれ」
出た、出た。伝家の宝刀「人それぞれ」。ならば、もういっそ、首をくくって死んでみようか。普通に普遍、普通に共通の「悲しみ」って感情を、教えてやろうか。
「きっと私は、普通に生きて、普通に死んでいくんだ」
また、また。いつも通り。清々しいほど前向きにデカダンス。そして多分彼女にとっては、それが「普通」。
「でも普通に生きて、普通に君に出会ったから、普通に君のことが好きになったんだろうね」
ほら、ほら。とてもずるい。「普通」だなんて。いつもこんな風に、僕を黙らす君は本当にずるい。
「好きだよ。この上なく、君が好きだ」
僕はその日、「悲しみ」よりも素敵な「普通」を知った。
遠く、キノコ雲を眺めながら。
世界から、僕らの普通が消えた日の事。
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