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「その人が親と言う事は無いの?」
まだ言うのか。男はそれを、思うだけで口にも態度にも出さず、淡々と返す。
「それは──ないですね。あの人、子供を作るような柄ではありませんから。
まあ、なんと言っても恩人であり師なので、断る気も無く、こうしてその女の子を引き取りに来たんです。繋がりはよく分かりませんが」
その声を聞く限り、嫌々とも喜々とも捉えられない、肯定も否定もしない声だな、と羅美は思う。
「ふふ、ここであったのも何かの縁かしらね。その女の子の名前を聞かせてくださらない?」
何がおかしかったのか、羅美はほほ笑みながら腰を浮かす。これで最後、と言う事のようである。
「名前ですか? さわわですよ、早羽波さわわ。名前は平仮名で、名字は早い羽の波と書いて早羽波です」
羅美はそれに満足げに「いい名前ね」と言うと、別れを告げる事無く、赤い男を振り替えることもなくもと来た道を引き返していった。
これは、屋敷に使用人がまだたくさんいた頃──つまり、彼女が普遍坂姉弟を引き取る、その少し前の話である。
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