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「…何やら…訳ありのようじゃな。
わかった。この件は儂の胸の内に留めておく」
医者も朧気に察したようで、他言しないという意思を示した。
「ありがとうございます」
再び土方が頭を下げ、誰かに診療所まで送らせると進言したが、医者は大丈夫だと断った。
「一日一回、包帯を換えてやりなさい。無理はさせんようにな」
「承知しました。ありがとうございました」
医者に礼を言い、近藤と井上が門まで見送った後、一同は夕餉をとっていた広間に集まった。
「すっかり冷めちゃったね」
藤堂が苦笑しながら残っていた煮物を口に運ぶ。
「まぁ、あのお嬢ちゃん、命に別状はないなら良かったじゃねえの」
「馬鹿ッ八、俺らとは訳が違うだろうが」
冷えて固くなった飯にお茶をかけてかき込んでいた永倉を、横から原田が小突いた。
「命はありましたが…女子の身体に傷が残るというのは辛いことだよ」
山南の言葉に一同はおし黙ってしまった。
「そうだな…目立たなくなればいいが…」
顔をゆがめて呟く近藤は、まるで自分の娘を案じているかのようだった。
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