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「で、歳さん、一体何があったんだい?」
食後の茶を注ぎながら井上が土方に視線を送ると、土方はああ、と短く返事をすると、胡座をかく足を入れ替えて座り直した。
「…正直、俺もあのガキに何があったかは知らねぇんだ」
「え、そうなんですか?」
「じゃあ…浪士に襲われたとか?」
「その線が一番濃厚ですね」
「いや、違う」
あれこれと議論を始めた藤堂達を土方が制した。
「何だ?心当たりがあるのか?」
近藤が訊ねると、土方はおもむろに懐に手を入れ、懐紙に包まれた何かを取り出した。
「少なくともその辺の浪士じゃあねえな」
懐紙を開き、出てきたのは、血の付いた両刃の短刀のようなものだった。
「懐刀?いや…違うな」
柄の先端に指が通るくらいの穴が開いている。ふつうの懐刀にこのような装飾はない。
「これがアイツの肩に刺さってたんだよ。止血するために抜いた」
「こんなものが…」
痛々しい傷を思い出し、沖田の顔が歪む。
「…とにかく、俺がガキを見つけた時の状況だけは話しておく」
ふぅ、とひとつため息をこぼし、土方はそのときの様子を話し始めた。
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