朔の一日、屯所のあちこちにて

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…否、正確に言うと一人は別の対象に気をとられていた。 もぞもぞと、朔の腕の中で身じろぎする子犬が、ぴょこんと顔をあげた。 (あっ、起きた) 道場の空気が変わったことを察知したのだろうか。ふんふんと鼻をひつくかせ、辺りを窺っていたかと思うと、突然腕の中から飛び出してしまった。 (あっっ!!わんちゃん、駄目だよ…!!) 尿意を催したらしく、床の匂いを嗅ぎながらよたよたと歩き回る。 隊士達はまだ気づいていない。 (こんなところでやっちゃったら怒られる…!!) 隊士達の足元をちょろちょろする子犬を、同じくちょろちょろと追いかける朔。 それでも、隊士達はまだ気づかない。 睨み合う沖田と藤堂の気迫にあてられ、目が逸らせないというのもあったが、何より、剣術に秀でた二人の立ち合いを見ていたいという、刀を握るものとしての興味が大きかった。 そして、渦中の二人もひっそりと慌てている朔には気づいていなかった。 がしぃっ (つっ、捕まえた…。もうちょっと我慢してね…) 道場の隅でようやく子犬の捕獲に成功し、ほっと安堵する間もなく、急いで外へ向かう。 と同時に、お互いの出方を窺っていた二人が同時に動いた。 ダンッ!! 激しい衝撃に、片方の竹刀は弾かれて吹っ飛び、片方の竹刀は半分のところで折れた。 …そして、その折れた竹刀の先が道場の入り口へ向かう朔めがけて飛んでいた。
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