川の秘密

3/4
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
「本当だ。プラネタリウムみたいだね。」 彼の手を握る母が言う。 「なぁにそれ?」 「たっくん、知らなかったっけ?」 「うーん、知らないなぁ。」 さもじっくり考えましたと言わんばかりの答え方をした。母はクスクス笑った。 「今度、連れていってあげる。とってもきれいよ。」 彼は少し不思議そうに母親の顔を見上げると、しばらくして、うん、と頷いた。そして、つないだ手を二、三度、大きく振った。 「ほたるがいっぱいだね。」 そう言って、背の高い草に囲まれた自分の周辺だけをキョロキョロと見回す。五、六匹の蛍がおしりの星をゆっくりと光らせていた。彼らはたまに宙を舞い、光のない空間を自由に飛び回った。彼のすぐ近くにすっと光の筋がめぐる。くっとつかもうとするが、一つの小さな手だけではなかなか捕まえることができない。何度かそんなことを繰り返していると、やがてじれったくなったのか、母親の手を振りほどいて両の手で捕まえにいこうとした。だが、握られた手は、固かった。 「勝手に動いちゃだめよ。川があるからね。」 そう言って、焦れている息子を抱えあげる。彼は反射的に首に抱きつき、ぐっと大人の視点まで持ち上げられた。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!