孤独の加速度

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     星報堂の健康煙草『夜タバコ』を喫みながら、青い煙を電灯に吹きかけた。 「いよいよ明日が文化祭ですね」 「うん。そうだね」  先輩が返事をする。東研究棟5階の窓から、大学構内を見つめて。 「先輩」 「何?」 「なにか今夜は……夜が暗幕で、月が玩具のように見えますね」 「そして星屑が蜻蛉玉みたいに見える?」 「はい」 「孤独なの。きっと今夜は、みんなが孤独と切なさを加速させている」 「なぜ?」 「不思議」  その後、僕は無意味に青い煙の輪を量産した。そして先輩と肩を並べて窓の外を見た。 「何となくわかります。何か楽しいことが始まるとき、楽しいと感じているとき、ふと終わりの予感を覚えて、そうして、辺りのざわめきからこころが遠のいてしまうようなことが――先輩、ねえ先輩、あなたは泣いてるんですか」 「……だって。だって、とても哀しくて、とても幸せなんだもの」 「……。」 「幸せ。みんながずっと今夜のままでいられたらいいのにね」  その一言で僕もなんだか切なくなった。  
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