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童話の挿絵みたいなお月さま、今夜のあなたはいかにも童話風です。
本当は……あなたは作りもので、そしてこの夜は一幕の喜劇に過ぎないのでしょうか?
☆…★…☆
街角の街灯が僕に語りかけるGood Night今夜はどちらへ?
僕は顔を上げた。
――ちょっと『青薔薇』まで
――やっぱり。そうだと思いましたよ。
――なぜ?
――(静かに笑って)……あの喫茶店にあるものはすべて絶品です。カフイとシガレット。そして良質な音楽、なによりあの黒く澄んだ瞳の少女は。……そういや彼女はなんという名前だったかな。
――月世。たしか16歳でしたね。アルバイトの。
――そう。夕暮れ時に彼女はよく私が佇むこの通りを歩きます。そして私は今年の夏の終わりに見た彼女が忘れられないのです……夕日色に染まったこの街角でふと空を見上げた彼女の瞳は美しい茜色だったのです。私はそこに世界の終わりを見ました。
――あなたは恋をしているのですね。
――恋を? そうでしょうか。街灯の私が……
――きっとそうですよ。
――ええ。ありがとう。さあ早くお行きなさい。今夜の月光にはどうやら多量に感傷性有害物質が含まれているようですから。私のかすかな灯りではそれを紛らすことができないでしょう。
――ではまた。
その街灯を離れ、冷たい月光を背に浴びながら歩いていった。僕の部屋から『青薔薇』まで徒歩でおよそ17分34秒だが、街灯と立ち話(街灯はいつでも立っているものだが)をしたために3分16秒ほど余計にかかってしまった。
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