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Tinkle―Tinkle♪
店の扉についているベルが鳴る。
僕はカウンター席に腰を下ろしてマスターに話しかけた。
「やあいい夜ですね。今夜は」
「ああ。君のような気取りたがりの似非紳士が何人も来たよ」
「ははは。でも今、客は僕だけのようですね」
ブレンド(青薔薇オリジナル)をひと口。マスターは窓を開けて夜空にかかる月を剥がしプレーヤーにセットする。針が落ちて、静かな音楽が流れ出した。
♪ In The Moonlight
♪ Night stroller
♪ Goodbye Coffee
♪ …………
Tinkle―Tinkle♪
3曲目と4曲目の間に、扉が開いて月世が姿を現した。
「あら、こんばんは」
「やあ。どこに行ってたんですか?」
「コーヒーに入れる星屑を買ってきたんです」
「ああ。そうか」
「マスターこれ星屑。でもちょっと質が悪いみたいですよ」
「ありがとう。仕方が無いね。このごろ曇り空だったから」
「でも今夜は本当にきれいな月夜だわ」
「ああ。そうだね」
「月世さん」
「なんですか?」
「素敵な腕時計をしていますね?」
彼女の左手には文字盤に五線譜が描かれた腕時計があった。秒針に四分音符がくっついていて、それが静かに時を刻んでいた。
「ああ。これは私の誕生日にもらったものです」
「そうですか。それは、良かったですね」
「ええ。私の学校の、天文部の部長さんから」
「君の恋人ですか?」
「いえ、それは、その。まだ……(彼女は顔を赤くして俯いた」
「ふーん。ところで、この店に来る途中の路地に街灯があるのをご存知ですか」
「ええ? そういえば。でもあの街灯ちょっとへんなんですよ」
「なにが?」
「いつも私がそばに行くと弱々しく点滅するんです。今にも消えてしまいそうで。……なんだか寂しい気持ちになります」
「へえ、そうなんですか……」
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