第一章 どす黒きもの

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最寄り駅から家まで、およそ三百メートル。普通なら五分もかからない距離だろう。だが、司にとっては三時間以上はかかる大変な道のりだ。 「距離」、「時間」という物理的で堅牢な概念も、ほんの些細な状況の変化により、簡単にその意味を殺がれてしまうことがある。結果として、たちまち示唆的に過ぎない、不確かな概念に成り下がる。あの出来事の後、司はそんなことに初めて気がついた。 あれ以来、午前二時前に家に辿りついたことがない。仕事を早目に終え、終電よりだいぶ早い電車で最寄り駅に到着しても、最終的に家に辿り着き時計を見ると、既に午前二時をまわっている。そんな日々が、かれこれもう一ヶ月以上も続いていた。
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