立待月

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進められるまま、瑠樺は海渡の向かい側の椅子を引いた。 「ちょッ…椅子を引くな! 椅子を!」 「いや、当前の事をしただけですから」 顔色一つ変えず女性に椅子を引いた海渡に、瑠樺は目を見開いた。 どちらかというと、そういった気遣いとは無縁のタイプだと思っていたからだ。 仏頂面のまま、珈南と呼ばれた女性は座席に付く。 「先輩、コーヒーフロートのミドルでしたよね?」 「ガムシロ無し。深煎り」 「それは、知ってます」 珈南が顔を真っ赤にして振り上げた拳をさらりとかわし、海渡はカウンターへと歩き去った。 しばしの沈黙が流れたが、珈南が口を開いた。 「都築さん、だっけ?」 「はい」 瑠樺は返事はしたものの、何を話せばいいのか解らなくなっていた。 またもや沈黙が流れた所に、城崎が店内に入るのが瑠樺の目に入る。 「お二人は良くここへ?」 「アイツとは初めて。会うの五年ぶりだし」 「そう、なんですか……」 瑠樺が悩む間に、少しだが息を乱した城崎がいつの間にか横に現れていた。
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