3355人が本棚に入れています
本棚に追加
「ま、幻に決まっている! 何故なら……」
「何故なら?」
「い、今までいなかったではないか!」
「……吹けば消えてしまう蝋燭の火の如く……そんな儚い根拠であなたはこの少女を見捨てると?」
緋乃がそう言うと、セインは悔しさを押し殺すようにギュッと拳を握る。
幻だ。
幻なのは明白だ。
なのに、手が出ない。
一歩が踏み出せない。
煉の親友の一人でもある目の前の少女を見捨てるなど……出来る筈がない。
「疑いを持たぬ心、正直な心、仲間想いな心、人の美しさを際立てるその純真なる性……誠に美しい」
緋乃は微笑みながらそう言った。
しかし、次の瞬間!
緋乃の表情から笑みは消え失せ、まるで人を見下すかのような冷たい視線がセインに向けられる。
「けれど……それが命取りになるのですよ。幻惑とはそういう者にこそ真価を発揮する」
緋乃は扇子をヒメの首にくい込んでいく。
ヒメは苦しそうに呻き声をあげ、緋乃から逃れようと暴れる。
「や、やめろ!!」
「何故? この少女は幻ですよ?」
「う……く! 」
緋乃が幻だと言うのだから幻なのだろう。
だが、そう思わせて助けようさせ少女を殺す気では?
いやだが、その裏を突き……
「…………っ!!」
セインはやはり動けずにいた。
最初のコメントを投稿しよう!