まりあ

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北野星太郎が寝室から出て行った。あたしのために紅茶を淹れてくれるようだった。 人というのは、面倒くさい。態度がころころ変わる。 しかし、北野星太郎は、不思議な人間だ。あたしに服を着せた。あたしをみて、どこか寂しそうな顔をする。 なによりも、あの真っ黒い瞳だ。奥が見えない。 あたしを不安にさせる上に、何故か気になってくる。 「服を、買わないとな」 突然声がしたかと思うと、北野星太郎が寝室に戻ってきた。それからシンプルな丸いテーブルに、持っていたティーセットを音もたてずに置いた。 「私も女もの服なんて、持っていないからな」 北野星太郎が笑うので、あたしも控えめに笑っておいた。 「……」 「なんでしょうか」 北野星太郎が、あたしを見つめた。 顔になにかついてるのかもしれない、そう思ってあたしは顔を触ってみたが、何もついていないようだった。 「なんでもない」 「そうですか」 「…君は、変わっているな」 「…そう、です?」 あたしは内心焦っていた。あたしはあくまで、普通の人間を装わなければいけない。 「ああ、変わってる」 北野星太郎は、無表情だった。 あたしはもっとも自然な言い訳を考えたが、なにしろあたしは外の世界に出てきたばかりで、普通の人間と言うものがわからない。 戸惑いながら顔をあげると、あたしのすぐ前に北野星太郎がいた。無表情だ。きっとあたしも無表情になった。なぜなら、北野星太郎の顔が近づいてくるのが見えたから。
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