3人が本棚に入れています
本棚に追加
計画通り、あたしは男と出会った。
渡されていた写真と比べると少しばかり老けていたが、彼は確かに『北野星太郎』であろう。
黒い髪の毛が余りにも印象的だった。その他の特徴は見あたらなかった。やはり白衣を着ていて、眼鏡をかけていた。
あたしを初めて見た時の北野星太郎の表情は、すこし異常なものだった。信じられないものをみたような顔をしていた。
まあ、後々考えてみたら、それは当然である。なにしろ、あたしは服を着ていなかったのだから。
「……。なにをしている?」
「あ、ごめんなさい。お邪魔しています。あの、…迷ってしまって」
服を纏いもせず、寝室の床に座るあたしを、北野星太郎は睨みつけるようにみていた。
あたしは、記憶消失を演じるように言われていた。
あたしは余り言葉を発したことがなかったため、話し方が間違っていないか不安だったが、北野星太郎は気にしていないようなので安心した。
「え?」
「迷ってしまったんです」
北野星太郎は、混乱しているようだった。裸のあたしに目線を向けられず、視線が泳いでいた。
しかし、あたしにはそれが不思議で仕方なかった。あたしは白い部屋で服なんてものを与えられていなかったからだ。
「とりあえずこれを着てくれ、話はそれから聞かせて貰う」
北野星太郎は、自らが着ていた白衣を脱ぐと、あたしに差し出した。あたしは北野星太郎の白衣を受け取り、彼らがしているように腕を袖に通してみた。嗅いだ事のない匂いがした。
「どうして裸なんだ?」
「……」
あたしは答えられなかった。服を着る習慣なんてもともとあたしにはなかったわけだし。
「…どこからきた?」
北野星太郎は、反応を示さないあたしに少しイラついた様子だった。
「わからない」
「わからない?」
「わからないんです。ここはどこ、ですか?」
あたしが尋ねると北野星太郎は、あたしを無表情で見つめた。
「…君は、俺を知っているか?」
あたしの感覚が正しければ、北野星太郎のその表情は悲しそうに見えた。
最初のコメントを投稿しよう!